もの忘れ外来とは
もの忘れの症状がある場合、考えられる原因は主に2つあります。それは、加齢に起因する健忘症(良性健忘)と認知症の発症による記憶障害です。前者であれば、自然な老化現象ですので治療の必要はありません。ただ、もの忘れと思われる症状が認知症特有のものであれば、直ちに治療を行ってください。認知症につきましては、現時点で治癒させることは困難です。ただ、比較的軽度な状態で発症が確認できれば、薬物療法などによって症状の進行を遅らせることは可能です。
なお健忘症と認知症でみられる症状は、非常によく似ていて区別がつきにくいものです。そのため、物忘れか認知症か判断できないという場合は、速やかに医療機関で鑑別するようにしてください。
忘れていることに自覚があるか
なお加齢による健忘症と認知症の物忘れの大きな違いとしては以下のことがあります。健忘症の方は、体験したことの一部を忘れている、あるいは本人がもの忘れをしているという自覚があります。また日常生活に支障をきたすことがありません。それに対して認知症患者さまの物忘れは、体験したこと全部を忘れている、自らがもの忘れをしている自覚がないということがあります。また認知症では、記憶障害など様々な認知機能障害(見当識障害、遂行機能障害、失行、失語 など)が生じているので、日常生活に支障をきたすようになります。
以下の症状に心当たりがあれば、
ご相談ください
- 物の名前が思い出せなくなった
- しまい忘れや置き忘れが多くなった
- 何をする意欲も無くなってきた
- 物事を判断したり理解したりする力が衰えてきた
- 財布やクレジットカードなど、大切な物をよく失くすようになった
- 時間や場所の感覚が不確かになってきた
- 何度も同じことを言ったり、聞いたりする
- 慣れている場所なのに、道に迷った
- 薬の管理ができなくなった
- 以前好きだったことや、趣味に対する興味が薄れた
- 鍋を焦がしたり、水道を閉め忘れたりが目立つようになった
- 料理のレパートリーが極端に減り、同じ料理ばかり作るようになった
- 人柄が変わったように感じられる
- 財布を盗まれたと言って騒ぐことがある
- 映画やドラマの内容を理解できなくなった など
もの忘れ外来でよくみられる症状
良性健忘
加齢による年相応の記憶障害が良性健忘です。認知症との違いは、大切なことは忘れていないという点です。例えば、朝食で何を食べたかは覚えていないが、食事をしたことは覚えているという点です。このような場合は、良性健忘です。
軽度認知障害(MCI)
認知機能には、記憶、思考、理解、計算、学習、言語、判断といったものが含まれています。その中の1つに問題はあるものの、現時点では日常生活に支障がみられないという場合は、軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)と診断されます。これは、健常者と認知症の方の中間段階(グレーゾーン)に位置する状態ですが、とりあえず問題がないからと放置が続けば認知機能の低下は進むとされ、その後の5年間で約50%の方が認知症を発症すると言われています。
ただ、軽度認知障害と診断された時点で薬物療法などの治療を行っていけば、本格的な認知症の発症を遅らせることは期待できます。そのためMCIと診断された時点で、認知症の治療を検討することがございます。
認知症
脳の病気や障害によって、正常に働いていた脳の機能が低下していき、記憶や思考への影響がみられるようになると認知症と診断されます。発症すると、物事を記憶する能力、判断する能力、時間や場所・人などを認識する能力が下がるようになるので、日常生活などで大きな支障が出るようになります。
なお認知症は、もの忘れと非常に症状がよく似ています。自覚があるなら、お早めに検査を受けてください。その結果、例え認知症と診断されても早期に発見できれば、現在の医療では完治が困難でも、進行を遅らせることはできます。当院の認知症の診断方法ですが、まず問診を行い、記憶障害、認知機能障害、日常生活の支障や困難さなどの状態を確認します。その後、神経心理学検査(知能、記憶検査 等)を行います。また医師が詳細な検査が必要と判断すれば、CTやMRIなどの画像検査、脳波検査、血液検査、脳脊髄液検査などによって診断をつけます。
85歳以上では認知症の割合が4人に1人以上
年をとるほど発症しやすいのが認知症です。有病率は65歳以上70歳未満では1.5%程度ですが、85歳以上では27%となり、実に4人に1人以上の方が認知症患者であるというデータもあります。なお若い世代の方であっても脳血管障害や若年性アルツハイマー病によって認知症を発症することがあります。なお、65歳未満で認知症を発症した場合は、若年性認知症と診断されます。
認知症の種類について
なお認知症を引き起こす原因は一つとは限りません。よく見受けられるのは、下記で説明する4つのタイプですが、日本人の全認知症患者のうち60~70%はアルツハイマー型認知症で、約20%が脳血管型認知症と言われています。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、脳に特殊なたんぱく質(アミロイドβ(ベータ)など)が蓄積することで、神経細胞が壊れて減ってしまい、脳の神経が情報をうまく伝えられなくなって、機能異常を起こすと考えられています。
また、神経細胞が死滅することで臓器でもある脳そのものも萎縮していき、脳の指令を受けている身体機能も徐々に失われるようになります。
記憶障害、見当識障害、思考障害(物盗られ妄想)などの症状がよく見受けられ、男性よりも女性の患者さまの割合が高いのも特徴です(男女比は1:2)。
脳血管型認知症
主に脳血管疾患(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)によって、脳の血管が詰まったり出血するなどして脳細胞に酸素が十分に行き届かなくなって、神経細胞が死んでしまうことで発症する認知症です。障害部位のみに機能低下がみられるのが特徴で、まだら認知症、運動・感覚障害、情動失禁などの症状がみられます。
レビー小体型認知症
レビー小体(神経細胞にできる特殊なたんぱく質)が脳の大脳皮質(物事を考える場所)や脳幹(生命活動を司る場所)にたくさん認められる疾患です。レビー小体が多く集まっている場所では、情報をうまく伝えられなくなるので、認知症が起きやすくなります。主な症状は、幻視、認知機能障害、パーキソニズム、睡眠中に起きるレム睡眠行動障害などです。特に幻視はかなりリアルなものであることが多いのが特徴です。
前頭側頭型認知症
頭の前部にある前頭葉と、横部にある側頭葉が萎縮することによって起こるタイプの認知症です。脱抑制、人格変化、常同行動といった症状が現れます。発症年齢は40~60歳代で、比較的若い方にも見受けられます。
反社会的な行動(万引きなど)をとることもあり注意が必要です。
治療について
認知症を完治させる治療法は現時点では確立していません。ただ、早期発見・早期治療によって、病状の進行を遅らせることが期待できます。その方法としては、大きく薬物療法と非薬物療法があります。なお薬物療法では、認知症のタイプによって治療法が異なります。
薬物療法
アルツハイマー型認知症では、脳の神経細胞が壊れることで起こる症状(記憶障害や見当識障害など)をできるだけ改善させるのが治療の目的となります。そのため、病気の進行を遅らせる治療薬と、周辺症状(不安、焦り、怒り、興奮、妄想など)を抑える治療薬を用います。レビー小体型認知症もアルツハイマー型と同様ですが、パーキンソン症状があれば、抗パーキンソン薬を用います。
脳血管型認知症の場合は、脳血管障害を再発させることで悪化させるケースが高いので「再発予防」に向けた治療を行います。具体的には、脳血管障害の高リスク要因である、高血圧、糖尿病、心疾患などをきちんとコントロールし、脳梗塞を再発させないための予防薬を使用します。
前頭側頭型認知症では、現時点において症状の改善や進行を防ぐなどの有効な治療法が確立していませんが、同疾患による特徴的な症状については対症療法として抗精神薬が使用されます。
非薬物療法
非薬物療法とは、患者さまに残るとされる認知機能や生活能力を薬物に頼らずに高めていく治療法になります。具体的には、認知症と医師から診断された時点では、患者さまご自身で行えることは、まだたくさんあります。そのため、ご家庭内で役割をつくる(洗濯物をたたむ、食器を片付ける 等)などして、前向きに日常生活を送れる環境づくりをご家族の方が作っていくのも大切です。
また、昔の出来事を思い出してもらう(回想法)、無理をしない範囲で書き物の音読や書き取りを行う(認知リハビリテーション)、音楽鑑賞や演奏をする(音楽療法)、花や野菜を育てる(園芸療法)、リアリティ・オリエンテーション(現実見当識訓練:自分と自分のいる環境を正しく理解するための訓練)といった方法も効果的です。
このほか、運動療法(ウォーキングなどの有酸素運動)、ペット療法(動物と触れ合う)、レクリエーションなども有効です。何を行うにしても無理のない範囲にしてください。